レベルが高いレースほど距離適性が問われる
競走馬にはそれぞれ自分が得意な距離があります。人間でも短距離が得意な人がいれば、長距離が得意な人もいます。馬も同じで短距離が得意な馬もいれば、長距離が得意な馬もいます。
例えばオリンピックの100m走の金メダリストなら、小学生のマラソンチャンピオンと1500m走を行っても余裕で勝てるでしょう。しかしこれが大学チャンピオンともなれば、実際に勝つことは困難です。
競馬でも同じこと。もともと短距離が得意な馬がレベルの低いクラスで2000mの距離を基本雄能力の違いで勝てたとしても、クラスが上がるごとにその距離のスペシャリストが集まるのでそのうち勝てなくなります。
そのため、3勝クラスまでで大体その馬の適正距離に振り分けられます。競走馬が自分のベストパフォーマンスを発揮できるは、一部の例外を除き適正距離の前後200mの距離。大多数の馬は適性距離から離れるごとに勝てる確率が下がります。
レースの距離と根幹距離
現在、中央競馬では障害を除くと1000mから3600mまでの距離のレースが組まれています。そして一部の例外を除き、基本的には1ハロン(200m)ごとに細かく距離が設定されています。
ここで重要になるのが根幹距離と呼ばれる概念。1600mを中心としてほとんどのG1レースが2ハロン(400m)ごとの距離で設定されています。この400mごとに割り振られた距離を根幹距離と呼びます。
それぞれ短いものから順に
- 1200m(スプリント)
- 1600m(マイル)
- 2000m(ミドルディスタンス)
- 2400m(クラシックディスタンス)
となります。
スプリンター、マイラー、ステイヤーの違い
これに対し、距離適性により競走馬をスプリンター、マイラー、ステイヤーと呼んで区別します。競馬用語では短距離を走る馬をスプリンター、1600m前後を走る馬をマイラー、2200m以上を得意とする馬をステイヤーと呼びます。これは1971年に制定された競争距離設定基準によるもので、
- 短距離:1200m-1600m以下
- 中距離:1600m-2200m以下
- 長距離:2200m以上
とされていました。そのため2000mで勝ち負けしていても、距離適性から考えるとマイラーと呼ばれることもあります。
現在は距離のスペシャリスト化が進んでいるので根幹距離を中心に
- スプリンター:1000-1400m
- マイラー:1400-1800m
- 中距離馬:1800-2200m
- 中長距離馬:2200-2600m
- 長距離馬:2600m以上
と5段階で考えるが普通です。
レースの距離と競走馬の特徴
根幹距離を中心として多くのG1や重量レースが組まれ、競走馬は自身の距離適性のレースを使いながら頂点のG1を目指します。それぞれの距離のG1と競走馬の特徴は以下の通りです。
スプリント戦

- 根幹距離1200m(適正距離1000~1400m)
- 守備範囲のG1 :高松宮記念、スプリンターズS
スプリント戦の根幹距離は1200mです。基本的に1000~1400mを短距離戦とも呼びます。また1200mの前後200mに適性がある馬をスプリンター、或いは短距離馬と呼びます。
スプリンターの特徴
スプリンターは基本的にダッシュ力とスピードに優れ、馬体は四肢が短く胴が詰まり筋肉質の馬が多いのが特徴です。また気性が勝気な馬が多く、良い面として出れば勝負根性になります。
一方、悪い方で出るとレース前に興奮して体力を消耗し、レース中でも抑えが利かずゴール前でガス欠する場合も。血統面や体格が中長距離向きでも、気性の問題で短距離を走らせている場合もあるので注意が必要です。
他の距離適性の馬たちに比べると距離を走らない分だけ馬の消耗度が少なく、数多くレースを使えます。条件戦でも8位までに入着すれば賞金が稼げる上、中央競馬で頭打ちとなったら短距離戦が多い地方競馬にも移籍できるので、生産牧場でも比較的多く生産されます。
スプリント戦のペース配分
レースはダッシュが早い方がレースを有利に進められるので前半のタイムが早く、後半のタイムが遅くなる傾向があります。ゴールまで息を入れるタイミングがほとんどないので、出遅れは致命傷です。
ただしスタートしてもすぐにコーナーが始まりホームストレッチが長い東京ダート1400mや中京芝1200mでは前半が遅く後半が速くなる傾向があります。
マイル戦

- 根幹距離1600m(適正距離1400~1800m)
- 守備範囲のG1:ジュベナイルフィリーズ、フュチュリティS、桜花賞、NHKマイルカップ、ヴィクトリアマイル、安田記念、マイルチャンピオンシップ、フェブラリーS、チャンピオンズC
マイル戦は1600mを根幹距離としています。その前後200mの距離適性がある馬が現在はマイラーと呼ばれています。測量単位の一つであるヤード・ポンド法で1600mが約1マイルに相当することから、競馬では1600mを特にマイルと呼びます。
G1の数だけなら、この距離範囲が最も多く番組が組まれています。
マイラーの特徴
マイラーは基本的にスピードと瞬発力のバランスが良く、体型もスプリンターに比べると胴や脚が長く、ゴム毬のような弾力ある筋肉をしています。
マイラーは距離適性がやや短めならスプリント戦に、距離適性がやや長ければ中距離戦にも出走できるためレースの選択肢が広く、また近年の日本競馬がスピード偏重なので生産牧場でもマイラーの生産が盛んです。
マイル戦のペース配分
レースではスピードと瞬発力が共に問われるため、前半と後半のタイム差はあまりありません。そのため、前半が早ければ差し追い込み馬有利、前半が遅ければ逃げ・先行馬が有利になります。
中距離戦

- 根幹距離 2000m(適正距離1800~2200m)
- 守備範囲のG1:大阪杯、皐月賞、宝塚記念、秋華賞、天皇賞秋、エリザベス女王杯、ホープフルS、チャンピオンズC
中距離戦は2000mを根幹距離とし、その前後200mの距離適性がある馬を中距離馬と呼びます。マイルと同様にG1や重賞が数多く組まれています。牡馬三冠の一つである皐月賞や、八大競争の一つである天皇賞秋など勝つと種牡馬としての価値が上がるレースが多数あります。
中距離馬の特徴
中距離馬はスピードとスタミナを兼ね備えており、マイラーに比べると胴や脚がさらに長くなります。筋肉もマイラーに比べるとややスマートです。またある程度距離を走るのでスタミナの温存が必要で、気性の抑えが利く性格でないとレースを有利に進められません。
マイラーと同様にレースの選択肢が広く、勝つと種牡馬としての価値が上がるレースが多いので生産牧場でも盛んに生産されています。
中距離戦のペース配分
レースではスタミナの温存が必要なので前半の時計はやや遅く、後半の時計がやや早くなる傾向にあります。
中長距離戦

- 根幹距離 2400m(適正距離2200~2600m)
- 守備範囲のG1:オークス、ダービー、ジャパンカップ、有馬記念、宝塚記念、エリザベス女王杯
中長距離戦は2400mを根幹距離とし、その前後200mの距離適性がある馬を中長距離馬と呼びます。競馬関係者であれば誰もが勝利したいダービーやオークス、現在JRAで最高格付けのジャパンカップも2400mです。
世界的にも歴史と格式があるイギリスやフランスのダービー、世界最高峰のレースの一つである凱旋門賞も2400mです。この2400mの距離を別名クラシックディスタンスと呼び、この距離を勝てる馬が世界的に評価されます。
中長距離馬の特徴
中長距離馬は中距離馬と同様にスピードとスタミナを兼ね備えていますが、よりスタミナに偏重しています。この距離のG1で勝利すると種牡馬としての価値が世界的に高まるので、生産者であれば誰もがこの距離に標準を合わせて競走馬の生産を行います。
ただし、日本競馬では中長距離のレース自体が全体的に少なく、また中距離馬でもレースの展開次第で中長距離を守備範囲に出来るので、この距離ずばりの血統背景の馬は国内では減少傾向です。
中長距離戦のペース配分
中距離戦と同様にスタミナの温存が必要なため前半の時計はやや遅く、後半の時計がやや早くなる傾向にあります。
長距離戦

- 根幹距離 3200m(適正距離2600m以上)
- 守備範囲のG1:菊花賞、天皇賞春、有馬記念
長距離馬は3200mを根幹距離とし、2600m以上に距離適性がある馬です。ただし旧来の考え方であれば2200m以上に適性がある馬がステイヤーなので、クラシックディスタンスも基本的に守備範囲です。
かつては三冠レースで「菊花賞は最も強い馬が勝つ」と呼ばれていました。しかし近年の日本競馬界がスピード偏重傾向にあり、日本はもとより世界的に見ても2400m超の長距離レース自体が全体として圧倒的に少ないためステイヤー血統の競走馬自体が減少しています。
長距離馬の特徴
長距離馬の体型は脚と胴が長く、全体的にスラっとしており無駄な筋肉が無いのが特徴です。また性格的に比較的従順です。さもなければ長丁場のレース途中で引っ掛かり、スタミナロスをします。走法も体力を消耗し難いスライド走法の馬が活躍します。
長距離戦のペース配分
長距離はスタミナの温存が必須なので前半スロー、後半は各競走馬の心肺機能に合わせて徐々に早くなります。そのため多少スタートで出遅れたところでレース自体に大きな影響はありません。
ただし近年生粋のステイヤーが少なくなっているので、稀に心肺機能が高い生粋のステイヤーがレースに参加していると、ハイペースで飛ばして他馬のスタミナを削りそのままゴールといった競馬をすることがあります。
レーティングによるSMILE区分
近年では競走馬の能力を客観的に格付けするため、国際統一基準に基づきポンドと距離で割り出す「レーティング」が用いられています。
そこで用いられる距離の頭文字を取って「SMILE(通称、スマイル)」と呼び、各距離は以下の通りです。
区分 | 日本の呼称 | 距離適性 | 備考 | |
S | Sprint | 短距離 | 1000~1300m | ※アメリカとカナダのみ1000~1599m |
M | Mile | マイル | 1301~1899m | ※アメリカとカナダのみ1600~1899m |
I | Intermediate | 中距離 | 1900~2100m | |
L | long | 中長距離 | 2101~2700m | |
E | extended | 長距離 | 2701m以上 |
SMILE区分の距離は日本の距離体系と走破距離が若干異なるので馬券の検討に用いる際は注意が必要です。
レーティングでは各馬の能力は負担重量のポンドで表記され、同じ距離を走った場合同着になるように設定されています。つまりレーティングの負担重量が重い方がより能力が高いことを示します。1ポンドが約0.45kgなので、時計に直すと競争能力上約0.1秒差あることになります。
日本でもこの国際基準に準拠したJPNサラブレッドランキングが作成され、国内外のレースに出走した日本調教馬のレーティングを発表しています。。
レース後にG1では出走馬全馬の、リステッド競走以上では4着までのレーティングが発表されるので、その数値を基に次走のレース予想に使えます。各レースのレーティングはJRAのホームページに載っているので、ぜひ参考にしてください。
まとめ
競走馬は それぞれ距離適性があり、得意とする距離ごとに各馬の身体的な特徴や性格も異なります。そのため血統面では距離に合わないように見えても、身体や性格的な特徴から適性距離が導き出される場合があります。
競走馬が今まで走っていた距離と違う距離に出走してきた場合は、パドックなどで馬体や仕草を良く観察してください。馬体から適正距離でないため人気馬がコケたり、血統面で適正距離ではないものの馬体は適正距離だった伏兵が穴を開けたりして高額馬券が取れるかもしれません。
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