JRAのレースには芝とダートが存在します。日本では芝レース偏重のため平地G1の24レース中、ダートのG1は2つしかありません。一方、地方競馬はダートが主流です。そのためJRAと地方競馬の交流競走が整備され、ダートの楽しみも年々高まっています。
芝とダートでは根本的にコースの質が違うため、出走する馬の体格や馬券の検討も芝コースと大きく異なります。今回は、ダートレースの馬券の検討方法について解説します。
ダートコースの構造
JRAのダートコースは三層に分かれています。表面はクッション砂と呼ばれ厚さは9cm。砂は青森県六ケ所村の浜砂を使ています。基本的にダートコースで馬場状態に影響を与えるのは表面のクッション砂で、これはどの競馬場も同じです。
その下に上層路盤として山砂が厚さ20cm、さらにその下に下層路盤として砕石を20cmの厚さで施工されています。
ダートは芝に比べると馬場の変化が少ない
ダートコースは芝コースに比べ、開催経過による馬場の変化がほとんどありません。
芝コースは開催初日こそ内ラチ外ラチに差はありません。しかし開催が進と競走馬が多く通る内ラチ沿いが荒れ時計が掛かり出します。時計が掛かっても走破距離が短い内ラチを通るか、走破距離が長いが時計が早い外ラチを通るかが勝負の分かれ目で、馬券の検討も難しくなります。
一方でダートコースの砂は開催が進んでも芝コースのように馬場は荒れません。レース中に競走馬が走ると多少砂が動きますが、土日のレースが終われば再び均一にならし元に戻されます。
厳密に言えばダートコースは水はけを良くするためやや内側に傾斜があり、馬が走るごちに砂が内側に流れて内ラチの砂が厚くなります。午後のレースでは砂が厚くなった内ラチはやや時計が掛かります。ただしレースに影響するほど内外の差は出ません。
開催初日より開催最終日の方がやや時計が速くなる
ダートコースでは開幕初日よりも開幕最終日の方が全体的に時計が早くなります。砂は馬が踏みつけると、砂粒同士がぶつかり合って細かく割れます。開催が進むと砂粒がさらに細かくなり、蹄の引っ掛かりや砂抜きが良くなるので時計が早くなります。
砂が細かく割れるとダートコースの特徴である砂のクッション性が失われます。また500kg近い馬が踏みつければ砂の下の路盤は硬くなったり凸凹ができたりしてます。さらに砂が細かい埃となって騎手のゴーグルや馬の目に入りやすくなります。
そのため開催が終わると「砂の洗浄」と呼ばれる砂を入れ替えと路盤整理のメンテナンスが行われます。メンテナンスが終わり砂を入れ替えた直後だと、蹄に砂が引っ掛かり難くなるので時計が掛かります。しかし、開催が進むと砂が再び割れ徐々に時計が速くなります。
ダートの馬場状態の判断
ダートコースは雨が降ると砂に水を含むので馬場状態が変わります。
馬場状態は馬場担当者がその時々の砂の状態を確信しながら総合的に判断して発表されます。本来正確に馬場状態が把握できるダートの水分含率は、基本的に参考程度で見るにすぎません。実際に降雨でどのような砂の状態になると馬場状態が変わるのか見てみましょう。
馬場状態 | 含水率 | ダートの状態 |
良 | 9%未満 | クッション砂を手で握っても固まらないか、固まってもすぐに崩れる状態 |
稍重 | 7~13% | 踏み締めた時にクッション砂から水は染み出ないが、握ると団子状に固まる状態 |
重 | 11~16% | クッション砂の表面に水は染み出ないが、踏み締めると水が染み出る状態 |
不良 | 14%以上 | 表面に水が浮き、足跡に水がたまる状態 |
ダートは水分の含有量が増えると時計が速くなる
ダートは砂の水分が増えるごとにクッション性が薄れます。馬の蹄が直接砂の下にある硬い路面を踏みつけ、さらに砂から脚を引き抜く時も力も不要になっていきます。必然的に時計が速まり、パワーがある馬よりもスピードがある馬が有利になっていきます。
不良馬場では体が小さくパワー不足でいつもゴール前で失速していた馬が、突然ゴールに突っ込んで来るシーンも少なくありません。そのためダートコースが重、不良になった時は、基本的に持ち時計がある馬が有利です。また蹄が小さく、ピッチ走法の馬も有利です。
一方で不良馬場では持ち時計がないパワー型の1番人気馬が馬群に沈むことも珍しくありません。また大飛びスライド走法の馬や脚の蹄が大きな馬は、濡れた砂に脚を滑らせ走り難くなるので不利です。
夏・冬のダートは時計が掛かる
夏は雨が降らないと太陽の強い日差しでクッション砂が乾燥し、水分量が減少して表面が白っぽく見えます。このような馬場は足抜きが悪くパワーが必要で時計が掛かります。
冬は日差しこそ強くありませんが、空気自体が乾燥しているため砂も乾燥して時計が遅くなります。クッション砂が乾燥すると埃が舞うのでレースの合間に散水車で水が撒かれますが、表面を濡らすだけで時計に与える影響はほとんどありません。
乾燥したダートは馬格がありパワーがある馬を狙う
乾燥したダートでは馬格があり、馬体重が重くパワーがある馬が台頭します。特に直線に急坂のある中山の冬のダートでは500kgを超える馬力型の競走馬が活躍します。過去に時計が遅くとも1着になっている馬がいれば狙っても良いでしょう。
乾燥したダートでは逃げ、先行馬が有利
乾燥して時計が掛かるダートでは逃げ、先行馬が馬券に絡みやすい傾向にあります。通常ダートでは逃げ、先行馬は先にバテる確率が高いのですが、乾燥して時計が掛かるダートでは差し、追い込み馬もスタミナをロスして同様にバテます。そのため少しでも前を走る馬の方が有利です。
ダート馬と芝馬では体形や走り方が違う
新馬戦や未勝利戦、下級条件では芝とダートの両方に出走する馬は珍しくありません。しかしクラスが上がると徐々にコースや距離のスペシャリストが集まり能力差が無くなるため、芝かダートのどちらかに絞って出走します。
かつてはホクトベガやクロフネ、アグネスデジタルなど、芝のG1馬がダートのG1を勝つこともありました。しかし近年はダート路線が整備され、ダート馬自体のレベルが向上しています。そのため芝のG1馬がダートG1に出走して好走することはほぼありません。
なぜならダート馬と芝馬では体格や走り方が根本的に異なるからです。
ダート馬は筋肉質で脚は短め
基本的にダート馬はパワーが必要です。そのため芝馬より全体的に筋肉質でマッチョです。また芝では切れ味が必要なので筋肉に柔軟性が必要です。しかしダートでは切れ味よりパワー優先なので筋肉に柔軟性は余り必要ではありません。必要なのは砂の重さに負けない筋肉の強さです。
さらにダート馬の脚は芝馬に比べ短めです。脚が短いと一完歩も小さくなり、その分力強く地面を踏み込めます。脚が短いと前駆の筋肉が発達して、前脚で砂を掻き込む様なピッチ走法が多くなります。また蹄が小さいと砂から脚を抜く抵抗が少なく有利です。
ダートを走り切るには根性が必要
ダートは芝に比べ距離が伸びるごとにパワーとスタミナが必要です。そのため競走馬がゴールまでダートコースを走り切るには同じ距離の芝よりも根性が必要です。
また乾燥したダートではホコリが、重や不良では蹴り上げた時に水を含んだ砂の塊が馬の顔や目に当たります。当然馬も砂が目に入れば痛いので、ダートを嫌がる馬も多くいます。砂を嫌がる馬は砂を避けるために逃げるか、外側を走るか、最後方待機するかを選択せざるを得ません。
もともと根性がない馬が逃げればマークされて直線で潰されます。外を回れば距離を余計に走る分タイムロスになります。パワーが必要なダートでは追い込みの成功はほとんどなく、他の脚質に比べ馬券に絡む確率が極端に低下します。
そのため精神的に繊細でパワーの弱い牝馬は牡馬と比べ相対的にダートが苦手です。
日本とアメリカのダートは違う
ダートは英語の“dirt”から来ており、本来の意味は「土」です。もともと日本のダーコースはアメリカのダートコースを参考に作られていました。ただしアメリカのダートと日本のダートは根本的に違います。
アメリカのダートコースは英語表記通り「土」です。しかも風土の違でカラカラに乾いた赤土で、路面は硬く芝と同様に速い時計が出ます。そのためアメリカのダート馬が日本で種牡馬になると日本の芝向きの馬を輩出することが良くあります。サンデーサイレンスが良い例です。
一方で火山列島の日本の土は火山灰や森林土壌が中心です。しかもアメリカに比べ非常に雨と湿気が多く、雨が降ればすぐに土が泥状になり馬が脚を滑らせ走り難くなります。そのため水捌けの良い浜砂をコースに導入し日本独自のダートコースが誕生します。
中東のドバイでもダートコースが存在しますが、アメリカから土を輸入して整備しているので基本的にアメリカと同じ赤土のコースです。
外国のダート馬が日本のダートG1に出走しても勝てない
アメリカのダートは「土」でスピード重視、日本のダートは「砂」でパワー重視なのでレースに求められる要素が全く異なります。
日本の芝コースでも野芝と洋芝で活躍する馬が違います。同様に名称は同じ「ダート」でも日本とアメリカでコースの質が根本的に違うので、アメリカのダートチャンピオンがJRAの国際G1のチャンピオンズカップやフェブラリーステークスに参戦しても勝てません。逆も又然りです。
そのため国際競争のジャパンカップダートとして始まったチャンピオンズカップなど日本のダート重賞に出走する海外の有力馬はほぼいません(現在多くの重賞が国際競争に指定されています)。仮に出走してきても馬券には絡まないので、下馬評が高くても切って構わないでしょう。
まとめ
ダートは芝に比べると各競馬場の馬場変化が少なく、比較検討しやすい特徴があります。またダート馬と芝馬では好走する馬格や性格、走法などが異なります。以上を踏まえ、ダートレースで馬券を購入する際の参考にして下さい。
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