調教は出走馬の体調がピークの状態に仕上がっているかを見分ける指標です。競馬新聞には各レースに参加する競走馬の調教時計が載っています。競馬初心者はこの調教時計をどのように活用すれば良いか分からないかと思います。
調教時計から様々なことが分かります。そのため理論派の人の中には個々の馬の調教の状態を追いかけながら予想を立てる人もいます。
ただしスポーツ選手がある程度時間をかけて試合に向けて体調をピークに仕上げるのと同様に、競走馬もある程度の時間を掛けなければ体調をピーク持って来られません。そのため目的レースを当てたいだけなら、理論派の様に長い間個々の馬の調教時計を追いかける必要はありません。
その週の調教時計や強度を見れば、競馬初心者でも十分に出走馬の調子を判断できます。
調教の強度と種類
調教の強度を表す言葉には
- 馬なり
- 強め
- 一杯
- 単走
- 併走
があります。これはどれくらいの負荷で調教をしたか示す言葉です。人間でも体をほぐす準備運動から、筋肉や心肺機能を高めるトレーニングがあるのと一緒です。
また、調教では以下のコースが使われます。
- 芝
- ダート
- ウッドチップ
- 坂路
- ポリトラック
- 角馬場
- プール
馬の調子は調教のラスト1ハロンの時計で判断
調教で同じ距離、コースを走ってもトレーニングの強度で全体の時計はそれぞれ異なり、また中間の1ハロンごとの時計も厩舎のトレーニングの目的で異なります。そのため全体や中間のハロンごとの時計を見比べてもあまり意味はありません。
しかしラスト1ハロンはフィニッシュの意味合いがあり、ここだけは共通して遭えて時計を早めます。そのため調教のラスト1ハロンを見比べれば、各馬の調子を見極められます。ここでは各調教の意味合いと強度、ラスト1ハロンの時計で見る調子の判断方法について解説します。
調教の強度とラスト1ハロンの見方
馬なり
「馬なり」は馬の走る気に任せてコースを走らせる調教です。騎手が鞭を使って無理に追うことはありません。最後は手綱で馬にゴーサインを伝えてフィニッシュします。
「馬なり」の調教は馬に余計な負担を掛けない調教です。馬がかなり仕上がってあとはレースを待つだけの場合と、馬の疲労が蓄積し回復を促している場合に行われます。
前週に強めの調教を行い、レース当週が「馬なり」の調教でラスト1ハロンの時計が早ければ馬は仕上がって体調が良いと判断できます。逆に「馬なり」の調教が続き、レース当週の調教も「馬なり」で、ラスト1ハロンの時計が遅い場合は疲労が蓄積し調子が悪いと考えられます。
「馬なり」調教の判断方法
馬なりでラスト1ハロンが11秒台~12秒前半を叩き出していたら馬の調子はかなりいいと判断できます。12~13秒前半なら体調は悪くないと判断できます。逆に13秒後半なら「調教で走らない馬」という厩舎コメントがあっても、馬の体調は疑って見る必要があります。
「馬なり」の調教コメントの見方
「余力あり」「楽にフィッシュ」「終い抑える」「終いの伸びる」などポジティブなコメントなら調子が良い証拠です。逆に「一杯」「もたれる」「引っ掛かる」「バテる」などネガティブなコメントなら、馬の調子は良くないと判断できます。
強め
「強め」は「馬なり」より競走馬の手綱をしごき、追って走らせている状態です。馬なりよりも馬に負荷を掛けるため、トレーニングの意味合いも含まれます。またレースに向けて馬に気合を入れる時にも使われます。当然、「馬なり」よりも全体の調教時計は必然的に早くなります。
「強め」の調教の判断方法
「馬なり」と同様にラスト1ハロンが11秒台~12秒前半なら馬の調子はかなり良いと判断できます。12~13秒前半なら体調は悪くないと判断できます。ただし「強め」を数本行い13秒台が複数あるなら、あまり体調は良くないと考えられます。
「強め」の調教コメントの見方
「強め余力」「強めに追う」「追って伸びる」などポジティブなコメントがあれば馬の調子は良いと判断できます。
逆に「G前気合付け」「ササル」「よれる」「引っかかる」「追えず」などネガティブなコメントがあれば、馬はまだ仕上がり途上でレースに向けての気合も十分でないと判断できます。
一杯
「一杯」は手綱をしごいたり、鞭を使用したりして馬に全力を出させ高強度の負荷を掛ける調教です。ある程度体が仕上がっている馬なら、レースへ向けての気合付けで行われます。また体が太め残りで絞れていなかったり、成長途上で体を作り上げたりする際にも使われます。
スポーツ選手も強い負荷のトレーニングを試合直前まで行っていると筋肉に見えない疲労蓄積し、試合本番でパフォーマンスが低下します。馬も同様であまり頻繁に一杯で調教していると、レース本番で気力や体力が低下していることがあるので注意が必要です。
一杯の調教の判断方法
一杯は終始追っている状態なので「強め」より全体の時計も必然的に早くなります。ラスト1ハロンの時計の判断は「強め」と同じです。
「一杯」の調教コメントの見方
「一杯鋭く伸びる」「末一杯に追う」などポジティブなコメントなら、体調は悪くありません。
「叩き一杯」「掛かり一杯」「叩き一杯バテ」などネガティブなコメントなら、体調は良くないと判断できます。
単走と併せ
調教には1頭だけで追い切る「単走」と、2頭ないし3頭で一緒に追い切る「併走」があります。
単走は馬に負担を掛けたくない追い切り
「単走」は馬にあまり負荷を掛けたくない場合に用いられます。「単走」は乗り手が調教師の指示通りに馬をコントロールでき、馬も自分のペースで走れるので馬にストレスがあまり掛かりません。そのため気が弱い馬など、気性難の馬も単走で追い切られます。
併走は実戦を想定した追い切り
「併せ」は他の馬と歩調を合わせ、実践を想定した形式で行われる調教です。
そのため「併せ」で調教を行うと闘争心に火が付いたり、逆に併走馬に怯えたりする馬もいます。「併せ」の調教で感情を抑制できないと、レース本番で感情が暴走して余計なスタミナを消耗し完走できません。「併せ」は馬が自分の感情をコントロールする訓練も含まれます。
「併せ」では併走した馬のクラスも重要
実際にレースに使う馬が上のクラスの馬と「併せ」ている場合、上のクラスのレースのペースに慣れさせる意味があります。逆に成績が悪い馬を下のクラスの馬と併せて先着させ、馬に自信を取り戻させることもあります。
上のクラスの馬と「併せ」ている以外で、ラスト1ハロンが他の馬より遅れた時は馬が本調子ではない可能性が高いです。厩舎が「併走遅れは問題ない」というコメントでも鵜呑みにできません。
これは勝ち負けを期待している馬主へのリップサービスです。併走で遅れる馬は大抵のレースで馬券に絡みません。そのため「併せ」ではフィニッシュで併走馬に先着しているか、最低でも併入していることが重要です。
調教コースの意味
調教で使われる「芝」「ダート」「ウッドチップ」「坂路」「ポリトラック」「角馬場」「プール」の各コースは、それぞれ調教の目的や効果が異なります。どの調教コースで追い切ったかで、馬の調子や厩舎の思惑を推測できます。
芝

実際の競馬場の芝コースと同様に芝を敷いたコースで行われる調教で、実戦を想定したトレーニングができます。ただし芝コース脚部への負担も大きいので、脚部不安の馬には向きません。そのため芝馬が芝コースで調教できるのは、それだけ体が完成している証拠です。
ダート

ダートは競馬場のダートコースと同様に砂を敷いたコースを使用する調教です。ダートは芝に比べ脚部への負担が少なく、また踏み込みにパワーが必要なので筋力や心肺機能も鍛えられます。
ダート馬なら実践を想定した追い切りができます。芝馬も脚部不安がある場合や、心肺機能を高めたい場合はダートで調教します。
ウッドチップ

ウッドチップはコースに木の破片を敷き詰めたコースで行う調教です。ダートよりクッション性が高く、雨などの天候によるコース変化があまりありません。馬への肉体的な負担が少ないとされ、脚部不安や筋肉疲労を起こしている馬の調教に多く使われます。
ウッドチップで「馬なり」調教だったり、ラスト1ハロンの時計が悪かったりしたら、その馬は本調子ではないと判断していいでしょう。もちろん、これらの要因がなくとも厩舎の思惑によりウッドチップで調教されることはよくあります。
坂路
坂路は傾斜のあるコースを使用して行う調教で、走路にはウッドチップが敷かれています。負荷の掛かる坂道を一気に駆け上がることで、走行距離が短くても筋力や心肺機能の強化ができますい。ボディービルダーが無酸素運動で筋肥大を狙うのと同じです。
走行距離が短くとも筋肉の負荷が大きく、脚への負担が少ないウッドチップを敷いた坂路は脚部不安の馬の追切にも使われます。負荷の掛かる坂路で調教時計が良ければ、それだけ体調が良い証拠と判断できます。
ポリトラック
ポリトラックは電線の絶縁体として使用されていたポリエチレンや合成ゴムの廃材を細かく切断し、ワックスで固めた素材をコースに敷いた調教コースです。ウッドチップより、さらに雨などのによる馬場状態が左右されない特徴があります。
ウッドチップと同様にクッション性が高く、さらにグリップも効くため芝調教と同様かそれ以上にスピードが出ます。そのため芝馬でも体質が弱く、本番以外はあまり負担を掛けたくない馬の調教にも使われます。
角馬場
角馬場は柵で囲った1周200~600mの砂地の調教コースです。体をほぐすための準備運動や、各コースの調教終了後に整理運動で使われます。
プール
1周50mほどのプールで行う調教です。馬をプールで泳がせることで、脚部に負担を掛けず心肺機能を高めます。そのため故障した馬のリハビリやストレス解消、ダイエットなどに使われることが多く、プール調教の馬はまだ完調でないと判断できます。
馬をどう鍛えるかは各調教師の判断
調教師は馬の個性を見極め、これらの調教コースを組み合わせて馬を仕上げます。ただし人間のの肉体が1か月程度でスポーツ選手並みの筋肉を得られないのと同様、馬の肉体も1~2週間程度で仕上がりません。
一方で競馬新聞に掲載されている調教は当週に追い切った時計で、前走から当週までどのような調教が積まれ、どのように馬の肉体を仕上げたかは分かりません。そのため競馬新聞の調教を見ただけで、その馬の全能力を把握できるわけではありません。
理論派の予想家の中にはトレーニングセンターのどのレーンで追い切っているかまで考察する人がいます。しかし馬の肉体は長期間のトレーニングで作り上げられるものです。さらに馬の個性や厩舎の考え方もあり、それが本番で大きな影響を与えるとは考えられません。
どんなに能力が高い馬で効率的な調教を行われたとしても、本番で体調が悪ければ格下の馬にあっさり負けます。
競馬新聞の調教の短評は気にしない
競馬新聞の調教欄には、各馬の調教を見たトラックマン(新聞記者)の短評を掲載していますす。そこには「絶好調」「余裕の手ごたえ」「体調良好」「前走以上」など刺激的な文面が並びます。逆に「上積み疑問」「一変までは?」といったネガティブコメントもあります。
しかし短評を書いた人の主観であり、競馬を盛り上げるためのエンターテイメントに過ぎません。これらの短評を鵜呑みにすると、客観的な事実である調教時計の数字や併走の結果を見誤ります。
調教一番時計の判断
コメントで馬の調子が良いことを伺わせる「調教で一番時計」という言葉が載ることがあります。実際は調教で追えばいくらでも良い時計が出でるため、「一番時計」は出そうと思えば出ます。そのため馬券の取捨選択には、どのような状態で一番時計が出たのかが重要です。
「馬なり」調教で一番時計、あるいは近走不調な馬が一番時計を出したなら、体調が良いと考えられます。一発大駆けの可能性があるので、人気が無いなら狙ってみても良いでしょう。
しかし休養明けなどで太目残りで「一杯」で追い切って一番時計を連発しているなら、オーバーワークの可能性も十分考えられます。その場合はレース本番前に疲労が蓄積し、レース中にスタミナ切れを起こす可能性が高まります。
調教で騎手が追い切っていると厩舎の本気度が分かる
レースで騎乗する騎手が追い切っていると厩舎は勝ち負けを意識している
調教で騎手が騎乗している場合、厩舎側のそのレースに対する本気度が分かります。
調教の追い切りを実際にレースで騎乗する騎手が行う理由は、本番前に騎手に馬の状態を確認してもらうためです。この時の騎手の「順調」などというコメントは鵜呑みにできません。馬主や競馬ファンへのリップサービスで、実際は調子が悪くともネガティブなコメントは言いません。
重賞などで騎手が西、厩舎が東と離れている場合、騎手が地方競馬などに参戦している場合は調教での騎乗が難しいため騎手が追切するのは稀です。しかし重賞の格が高いほど勝ち負けした時の獲得賞金も高いため騎手が騎乗しています。
条件戦や特別レースなどでリーディング上位騎手が調教で騎乗している場合も、厩舎側が該当レースの勝ち負けを期待していると考えられます。人気薄でも狙ってみる価値はあります。
騎手が調教を付けている馬は将来性がある
一方で厩舎の所属騎手やリーディングの下位の騎手が調教で騎乗している場合は、その厩舎で将来性を見込んで時間をかけてトレーニングしている可能性があります。馬の成長には個体差があります。そのため晩成型なら突然連勝するなど、将来穴馬として期待が持てます。
またリーディング下位の騎手にしても、その馬を手の内に入れればレースで騎乗させてもらえる機会も増えます。当然、普段から騎乗している分だけレースで該当馬の調子の判断やコントロールやもしやすく、上位に食い込める可能性も高まります。
大手クラブ所有馬は帰厩前に調教で仕上がっている可能性大
大手クラブの競走馬の場合、休養中に美浦や栗東のトレーニングセンター以外の外厩で調教を積んでいる場合が多く、帰厩前にほぼレースができる体に仕上がっています。外厩は所有馬を勝たせるチャンスを高めたい馬主と、多く競走馬を管理したい調教師双方にメリットがあります。
競馬の世界で一番発言力があるのは馬主です。また美浦や栗東のトレーニングセンター以外で調教してはならな規則もありません。大手クラブは莫大な資金力で自前のトレーニングセンターを持ち、自らの方針に従って馬を鍛え、レースに使う時だけ厩舎に預ける所も少なくありません。
たとえばノーザンファーム系のクラブでは外厩舎として西に「ノーザンファームしがらき」、東に「ノーザンファーム天栄」を所有しています。特に「ノーザンファーム天栄」は栗東や美浦のトレーニングセンターに匹敵する規模の設備があります。
実際、美浦や栗東のトレーニングセンターの敷地は有限であり、馬を預けられる馬房数も限定されています(収納可能頭数は美浦で2652頭、栗東で2312頭)。しかし実力と人気のある調教師には、JRAが割り当る馬房数以上に競走馬が集まります。
一方JRAの規定では、帰厩後10日所属厩舎で過ごせばばレースに出走可能です。そのため外厩としてこれらのトレーニングセンターを利用している調教師も多く、レースの当週だけ栗東・美浦のトレーニングセンターで追切をします。
各競馬新聞のトラックマンは人員に限りがあるので、ほとんどの競馬新聞の調教欄では外厩調教について触れていません。大手クラブの休養場で帰厩間もないにも関わらず、最終追切が「馬なり」で好時計を出しているなら体は仕上がっていると見ていいでしょう。
まとめ
調教欄で判断できるのは競走馬が現在どのような調子かと、厩舎のレースに対する本気度です。
騎手が調教をし、併せで同格か格上以上に先着しているなら馬の調子も良く、厩舎も該当レースで勝ち負けを期待しています。また「馬なり」でもラスト1ハロンの調教時計が良いなら、馬の調子が良いと判断できます。
逆にどんなに能力が高い馬でも体調が悪ければ絶好調の格下馬に負けます。馬の過去の実績や成績に惑わされず、そのレースに向けての各馬の調子を見極めて馬券を検討してください。
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