競馬の時計の見方

競馬の基礎知識

競馬では走破タイムのことを慣例的に「時計」と呼びます。ちなみに走破タイムが早いことを「時計が出る」、逆に遅いことを「時計がかかる」と呼びます。初心者は「時計」を「タイム」に直せば分かりやすいと思います。

競馬では個々の馬の能力を示す数値としてゴール前直線の「上がり時計」と、競走馬が特定の距離でマークした「持ち時計」を重視します。当然これらの時計が優れているほど馬の能力が高いことを示しますが、競馬では必ずしも時計が優れた馬が常に勝つわけではありません。

馬券を検討する際に、初心者では分かり難い「上がり時計」と「持ち時計」の使い方について解説します。

「上がり」から馬券を検討する方法 

馬券を検討する際に、誰もが気にするのが個々の出走馬が持つ「上がり時計」です。競馬では「上がり時計」が早い馬ほど人気になりますが、必ずしも実際のレースで「上がり時計」が早い馬が勝つとは限りません。

「上がり時計」は瞬発力を示す数値

「上がり時計」とはゴールまでの残り3ハロン(あるいは4ハロン)の距離を何秒で走ったかを示す数値です。通常3ハロン(約600m)で示し、「上がり3ハロン34.5」とは、「ゴールまで残り600mを34.5秒で走破した」という意味です。

つまり上がり時計が早い競走馬ほど最後の直線での瞬発力に優れ、ゴール前の競り合いに有利です。そのため馬券を検討する際には、この上がり時計の数値が非常に重要です。基本的に番組表で逃げ・先行馬は上がり時計が遅く、差し・追い込み馬より上がり時計が早くなります。

各馬の上がり時計はレースごとに測定・記録され、次のレースの参考資料とされます。

上がりは先行馬が逃げ切れるか、後続馬が前の馬を捕らえられるかの目安

番組表で上がり35.5秒と34.5秒の馬がいた場合、一見34.5秒の馬の方が強く映ります。実際に馬券で人気になるのも、上がりが早い馬に偏ります。

しかし直線が310mしかない中山コースで、上がり35.5秒の逃げ馬が余力十分で上がり34.5秒の後続馬より3馬身引き離して直線に向いた場合、1馬身は約0.2秒なので計算上は後続馬が逃げ馬を捕らえらえられません。

逃げ馬上がり35.5≒16.9m/s、中山直線310mの走破タイム≒18.34秒
上がり34.5≒17.39m/s、中山直線310mの走破タイム≒17.83秒
18.34秒-17.83秒=0.51秒差=約2.5馬身以内なら交わせる。
※あくまで各馬が1ハロンごとのスピードを同じテンポで走ったと仮定した計算で、上がり34.5の後続馬でも1ハロンの瞬発力に優れた馬なら交わせます。

つまり上り時計はあくまで馬の瞬発力を示す数値で、絶対能力を意味する数値ではありません。レースの展開次第で上がりの遅い馬でも十分勝ち負けできます。

上がり時計は展開や馬場で左右される

レース展開による上がりの時計の違い

上がりの時計はレース展開で左右されます。

例えばスローペースだと最後の直線まで逃げ・先行馬のスタミナも温存され、全体の上がりも速まります。逆にハイペースでは差し・追い込み馬もレース中に先頭集団から必要以上に引き離されるわけにはいかず道中スタミナを消耗し、直線でどの馬も失速して上がり時計がかかります。

そのためどんなに早い上がりの時計を持っている馬でも、常にベストの上がり時計で走れるわけではありません。

馬場状態で上がり時計は左右される

芝やダートは馬場状態で時計が左右されます。良の芝なら走ると時に力が要らず上がりが早く、不良なら力が要る上がりが遅くなります。ダートならその逆で、良なら力が要るため上がりが遅く、不良なら脚が抜きしやすくなるので上がりが早くなります。

また芝のレースの場合、良馬場発表でも開催時期で上がりの時計が異なります。野芝は春先から秋までが生育期間で、この間はクッションが硬くなっているので上がりの時計が速くなる傾向があります。

一方で野芝は冬の間は枯れて黄色くなるので、見た目を良くするため寒さに強い洋芝を間に植えるオーバーシード施工を行います。冬開開催が進んだ2月から3月初旬は見た目良馬場でも実際は下地の野芝が荒れており、上がり時計がかかる傾向にあります。

また札幌や函館の芝コースは時計が掛かる洋芝が使われているので、他の競馬場よりパワーが必要で上がり時計がかかります。そのため夏競馬の札幌・函館で上がり36秒だったとしても、力の要らない野芝の新潟や小倉に転戦していきなり上がり34秒台を出すことも珍しくありません。

「最速の上がり」と「平均の上がり」を見比べる

馬の瞬発力には個体差があり、さらに上がり時計は馬場や展開で大きく左右されます。そのため前走の上がりの時計を見るだけではなく、数走前までの上がりの時計を平均して見比べる必要があります。

その時、最速の上がりを出した時と平均的にどれくらいの上がり時計を出せるのかを把握しましょう。これで相対的な馬の瞬発力を推定できます。あとは各馬と駆け引きなので、展開を予想しながら自分が選んだ馬の上がりがそのレースで通用するかを判断します。

「レースの上がり時計」で狙った馬が次走通用するかを考察

「レースの上がり」とは、ゴールまで残り600mを先頭に立つ馬が通過してから測定をはじめ勝ち馬がゴールするまでの時計です。もし逃げ馬が上がり36秒でゴールしたのであれば、その36秒がレースの上がり時計になります。

逃げ馬が先頭でゴールした場合のレースの上がり

一方で残り600mを先頭で通過した馬がゴール手前で交わされ勝ち馬が上がり34秒で勝ったとしても、先頭の馬が通過して勝ち馬がゴールに到着するまで34.5秒かかれば、レースの上がりは34.5秒です。

逃げ馬以外が勝った場合のレースの上がり


「レースの上がり」より上がり時計が早い馬は、展開が向かなかっただけで次走好走できる可能性があります。逆に逃げ馬以外で「レースの上がり」より上がり時計がかかった馬は、そのクラスのレースでは能力不足と考えられます。決定的な敗因が無い限り次走は狙い難いと言えます。

持ち時計が早い馬が必ずしも強い馬ではない

持ち時計とは

「持ち時計」とは、過去に走った距離ごとのベストタイムです。

競馬新聞の番組表にはそのレースと同じ距離、あるいは近い距離の持ち時計が、その時計を出した競馬場名と共に記載されています。新聞によっては、その時の着順も併記されます。当然持ち時計が早い馬ほどスピード能力が高く、そのレースで勝てる可能性が高いと考えられます。

しかし、競馬は出走馬の中で持ち時計が一番早い馬が必ずしも1着になるわけではありません。

持ち時計は馬の限界能力を示す数値

持ち時計はその馬のベストタイムの記録なので、その馬の限界能力を表す数値です。一方で、競馬はタイムではなく着順を争う競技です。陸上の短距離走のように決まったレーンを全力で走るわけではなく、他馬の動きを見ながらコース取りやペースを変えなければなりません。

そのため馬の体調がベストでも出走するメンバーで常にレース展開は異なり、どんなに持ち時計が優秀でもレースで持ち時計通りに走れる保証は一切ありません。

同じ距離の持ち時計でもコースで価値が異なる

同じ2000mの距離でも直線が長く加速がつけやすい東京競馬場と、コーナーがきつく減速しないと回り切れずホームストレッチで急な上り坂がある中山競馬場では、おのずと持ち時計の価値が違ってきます。

また同じ競馬場の同じ距離でも、芝の状態がいい開幕週と荒れた開催後半では時計の持つ意味が違います。同様に軽い野芝コースと重い洋芝コースでも時計が違います。

極端な話ですが、持ち時計が開幕週で芝の状態が絶好の京都競馬場の馬が、開幕後半で重い洋芝の札幌競馬場で勝ち負けできる保証はありません。

まとめ

上がり時計は瞬発力、持ち時計は絶対能力を示す数値で、個々の馬の能力比較に役立ちます。しかし、上がり時計も持ち時計も馬場やレース展開で常に異なるので、出走馬の中で過去の数値が一番高くともレースで勝ち負けできるとは限りません。

上がりや持ち時計で勝馬を予測する際には、狙った馬がどんなレースでその時計を出したのかをしっかり検討する必要があります。

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