ダートと芝の種牡馬の違い

競馬の基礎知識

ダートと芝の種牡馬の違い

JRAのダートG1は2レースのみ

JRAでは芝コースとダートコースの2種類の馬場でレースが行われています。芝のG1レースは春と夏で合計22レース組まれているのに対し(障害除く)、ダート重賞は冬のシーズンにチャンピオンズカップとフェブラリーステークスの2レースのみです。

チャンピオンズカップが中京1800mで11月下旬~12月上旬、フェブラリーステークスが東京1600mで2月中旬~下旬と施行日が近く、同じホームストレッチが長い左回りコース(2013年以前は阪神1800m)、距離も200mしか差がないので活躍する馬の傾向もほぼ同じです。

1800mも1600mもマイルの範疇なので、JRAのG1レースでも番組数が多い芝マイルG1で活躍する種牡馬と比べてみましょう。

JRAダートG1ではゴールドアリュールがダントツ

下記の表は2010~19年までの10年間でフェブラリーステークスとチャンピオンズカップで馬券となる3着までに入着した競走馬の種牡馬を現したのです。

年度 着順 フェブラリーステークス チャンピオンズカップ
2019 1 ケイホーム ゴールドアリュール
2 ゴールドアリュール ゴールドアリュール
3 キングカメハメハ ケイホーム
2018 1 トワイニング シンボリクエスエス
2 ゴールドアリュール ネオユニヴァース
3 シニスターミニスター シンボリクエスエス
2017 1 ゴールドアリュール ゴールドアリュール
2 マジェスティックウォリアー クロフネ
3 プリサイスエンド ゴールドアリュール
2016 1 ヘニーヒューズ フレンチデピュティ
2 トワイニング ジャングルポケット
3 アグネスデジタル アグネスデジタル
2015 1 ゴールドアリュール スズカマンボ
2 シニスターミニスター トワイニング
3 マジェスティックウォリアー フレンチデピュティ
2014 1 ゴールドアリュール キングカメハメハ
2 キングカメハメハ ゼンノロブロイ
3 キングカメハメハ スズカマンボ
2013 1 マンハッタンカフェ キングカメハメハ
2 ゴールドアリュール カリズマティック
3 カリズマティック キングカメハメハ
2012 1 Tapit ホワイトマズル
2 ゴールドアリュール カリズマティック
3 カリズマティック キングカメハメハ
2011 1 ワイルドラッシュ ワイルドラッシュ
2 ブライアンズタイム カリズマティック
3 ブライアンズタイム ゴールドアリュール
2010 1 ゴールドアリュール ワイルドラッシュ
2 Tapit プレサイズエンド
3 シンボリクエスエス アドマイヤボス

 

順位 種牡馬 頭数 占有率
1 ゴールドアリュール 13 21.7%
2 キングカメハメハ 7 11.7%
3 カリズマティック 5 8.3%
4 ワイルドラッシュ 3 5.0%
4 トワイニング 3 5.0%
4 シンボリクエスエス 3 5.0%

 

1位がゴールドアリュールで60頭中13頭、占有率は21.7%。2位がキングカメハメハで7頭、占有率は11.7%。3位がカリズマティックで5頭、占有率は8.3%。4位がワイルドラッシュ、トワイニング、シンボリクエスエスと分け合い共に3頭、占有率は5%です。

以上の6頭で全体の56.7%を占めます。20%を超えるゴールドアリュールが如何にダートマイル戦で強い種牡馬かが分かると思います。

芝マイルG1ではディープインパクトが圧倒的

下記の表は同じ010~2019年までの10年間でマイルG1(桜花賞、NHKマイルカップ、ヴィクトリアマイル、安田記念、マイルチャンピオンシップ、ジュベナイルフィリーズ、朝日杯フューチュリティS)で3着まで入着した種牡馬の頭数と占有率をまとめたものです。

順位 種牡馬 頭数 占有率
1 ディープインパクト 52 24.8%
2 キングカメハメハ 17 8.1%
3 ダイワメジャー 14 6.7%
4 クロフネ 12 5.7%
5 ハーツクライ 10 4.8%
6 フジキセキ 7 3.3%
7 ロードカナロア 5 2.4%
7 アグネスタキオン 5 2.4%

 

1位はディープインパクトで210頭中52頭、占有率は24.8%。2位がダートと同じキングカメハメハで17頭、占有率は8.1%。3位がダイワメジャーで占有率6.7%。以下クロフネ、ハーツクライ、フジキセキ、ロードカナロア、アグネスタキオンと続きます。

上記8頭で全体の58.1%を占めます。全体のほぼ1/4、24.8%を占めるディープインパクトが他の種牡馬に比べ、如何に芝マイルG1適性が高いかが数字からも分かるでしょう。

ダートと芝で走る種牡馬が違う

ダートと芝で共に2位にランキングしているキングカメハメハ以外、ダートと芝で重複している種牡馬はいません。

芝マイルG1に強い種牡馬の父系

種牡馬 父系
ディープインパクト サンデーサイレンス系
キングカメハメハ ミスタープロスペクター系
ダイワメジャー サンデーサイレンス系
クロフネ ヴァイスリージェント系
ハーツクライ サンデーサイレンス系
フジキセキ サンデーサイレンス系
ロードカナロア ミスタープロスペクター系
アグネスタキオン サンデーサイレンス系

 

芝のマイルではディープインパクト、ダイワメジャー、ハーツクライ、フジキセキ、アグネスタキオンが共にサンデーサイレンス直仔、7位のロードカナロアはキングカメハメハの直仔で走る血統もある程度偏っています。

ダートマイルG1に強種牡馬の父系

種牡馬 父系
ゴールドアリュール サンデーサイレンス系
キングカメハメハ ミスタープロスペクター系
カリズマティック ストームバード系
ワイルドラッシュ ニーアティック系
トワイニング ミスタープロスペクター系
シンボリクエスエス ロベルト系

 

一方でゴールドアリュールこそサンデーサイレンスの直仔ですが、キングカメハメハとトワイニングがミスタープロスペクター系、カリズマティックはノーザンダンサー系統のストームバード系、シンボリクエスエスがヘイルトゥーリズン系統のロベルト系です。

これらの種牡馬は主にアメリカのダート系種牡馬の系統を受け継いでいます。アメリカのダートは日本のダートとは異なり堅い赤土でクッション性が無く、長い年月をかけスピードとパワーを兼ね備えた肉体を持つ馬に淘汰されています。

日本のダートはスピードこそ出ませんが、アメリカのダートよりもパワーが必要なので必然的にアメリカ型のパワーのある種牡馬が上位を占めます。

サンデー直仔のゴールドアリュールがダート馬を輩出する理由

サンデーサイレンスは40頭以上ものG1馬を輩出していますが、ダートG1を勝ったのはゴールドアリュールただ1頭です。ゴールドアリュールは大井のジャパンダートダービー、東京大賞典、盛岡のダービーGP、東京のフェブラリーステークスとダートG1を4勝しています。

ゴールドアリュールはノーザンダンサー系の血が強い

サンデーサイレンス Hao Hail to Reason
Comah
Wishing Well Understanding
Mountain Flower
ニキーヤ Nureyev Northern Dancer
Special
Reluctant Guest Hostage
Vaguely Royal

 

上記はゴールドアリュールの3代までの血統表です。この表では確認できませんが、ゴールドアリュールはノーザンダンサーの3×5のクロスを持ち、さらに父系と母系にノーザンダンサーの祖母に当たるアルマームードのクロスも持っています。

そのためゴールドアリュールは母の父の父にあるノーザンダンサーの血を強く伝えると考えられます。ノーザンダンサーは20世紀を代表する大種牡馬であり、芝、ダートを問わず多くのステークスウィナーを輩出し、種牡馬になった競走馬も数え切れません。

母の父のヌレイエフも現役時代はイギリスの2000ギニー(1600m)を1着も進路妨害で降着、その後故障し種牡馬入りし、以後マイル寄りのステークスウィナーを数多く輩出しています。

実際にゴールドアリュール産駒のダートG1馬はサンデーサイレンス系のすらっとした馬体は少なく、ノーザンダンサー系の筋肉質の馬体の馬が多く見られます。

ゴールドアリュール産駒のG1勝利馬

産駒 G1勝利数 主なダートG1
エスポワールシチー 9 ジャパンカップダート、フェブラリーS等
スマートファルコン 5 JCBクラシック、帝王賞、東京大賞典等
オーロマイスター 1 南部杯
コパノリッキー 11 フェブラリーS、かしわ記念、帝王賞等
クリソライト 2 ジャパンカップダート、コリアカップ(韓国G1)
グレイスフルリープ 2 JBCスプリント、コリアスプリント(韓国G1)
ララベル 1 JBCレディクラシック
ゴールドドリーム 5 フェブラリーS、チャンピオンズカップ等
サンライズノヴァ 1 南部杯
クリソベリル 2 ジャパンダートダービー、チャンピオンズカップ

2019年12月31日現在

サンデーサイレンス系の種牡馬は基本的に芝向き

芝マイルで圧倒的な存在感を示すディープインパクトを代表するように、多くのサンデーサイレンス系の種牡馬の産駒は基本的に芝向きです。

サンデーサイレンスの血を引くとサンデーサイレンスと同様に後脚が曲飛節気味に生まれます。曲飛節も遺伝的要因が強く、バネがある芝向きの走りができます。

もちろんサンデーサイレンス直仔のフジキセキ産駒に、中央・地方を含めダートG1を7勝したカネヒキリもいます。こちらは母系にクロフネと同じヴァイスリージェントやミスタープロスペクターなどダート系の血が詰まっているので母系の血が濃く出たと考えられます。

サンデーサイレンスの血は母系の力を引き出す力があり、ダート色が強い肌馬ならサンデーサイレンス系の種牡馬でも良質なダート馬を輩出する可能性は十分あります。

参考
カネヒキリの血統

フジキセキ サンデーサイレンス Halo
Wishing Well
ミルレーサー Le Fabulex
Marston’s Mill
ライフアウトゼア Deputy Minister ViceRegent
Mint Copy
Silver Valley Mr.Prospector
Seven Valleys

 

キングカメハメハ産駒がダートと芝のG1で活躍できる理由

種牡馬の中では唯一キングカメハメハがダート、芝共に2位の成績を残しています。キングカメハメハは芝も短距離から中長距離まで常に上位ランキングするというオールマイティな種牡馬です。

キングカメハメハの血統

Kingmambo Mr.Prospecter Raise a Native
Gold Digger
Miesque Nureyev
Pasadoble
マンファス ラストタイクーン トライマイベスト
Mill Princess
Piot Birad Blakeney
The Dancer

 

キングカメハメハの産駒は筋肉質が多く、ミスタープロスペクター系らしい筋肉のパワーに裏付けされたスピードが身上で、芝で活躍場を多く出しているサンデーサイレンス系のような筋肉のしなやかさはあまりありません。

日本のダートはパワーが必要なため、筋肉質でパワーが身上のキングカメハメハ産駒は適性が高いと言えます。またキングカメハメハ産駒は大飛びのスライド走法が多く、フェブラリーステークスやチャンピオンズカップなどホームストレッチが長いコースは得意です。


一方で、同じダートコースでもコーナーが急でホームストレッチが短い中山や福島、小倉などはコーナーを回る時に減速しなければなりません。直線で再び加速するまで時間がかかるスライド走法では、持続するスピードという特性を発揮できずに終わることが多くなります。

ダートで求められる馬体は芝とは異なる

そもそもダート馬と芝馬では求められる馬体が異なります。それぞれどのような馬体の違いがあるか簡単に説明します。

ダートはパワー優先で筋肉質

砂で脚を取られてしまうダートはスピードよりもパワーが必要です。そのためダート馬は芝馬よりも多くの筋肉が必要で、必然的に馬体も筋肉質になります。

筋肉は鍛えれば太く強くなりますが限界があります。パワーは筋肉量にほぼ比例するので、骨格が太く幅があるほどより多くの筋肉が体に付けられます。また脚が短いほど砂にダイレクトで力を伝えられます。そして体の幅や脚の長さを決める骨格は遺伝で決まっています。

またダートで推進力を生むには砂に対し蹄が真っすぐに食い込ませなければなりません。また砂を踏み込んだ時の衝撃に耐えなければなりません。そのため繋(つなぎ)は短く立っている馬ほど高いダート適性を示します。繋の長さや角度も遺伝で決まっています。

芝はスピード優先で体の柔軟性重視

一方で芝はスピードが身上なので筋肉の量より筋肉の柔軟性や関節の可動域が広いことが重要で、馬体もスマートで構いません。また芝では一完歩が広いスライド走法で走るとスピードの持続力が高くスタミナのロスも減ります。そのため芝馬はダート馬より相対的に脚長です。

また芝のクッション性を活かすために繋も長く寝ています。繋が長く寝ているとスプリングのように使えスピードが出せます。これらの要素もまた遺伝が影響しています。

まとめ

以上のように、ダートと芝では求められる馬体の性質が異なり、馬体は遺伝に左右されます。必然的にダートを得意とする種牡馬、芝を得意とする種牡馬に分かれ、クラスが上がるほどそれぞれ馬場と距離に特化した種牡馬の競走馬で占められます。

芝のスピード競馬で頭打ちになった馬がダート路線に変更してきた時に走るかどうかは、血統内にダート適性がある血があるか、またダートに適した馬体をしているかに注目してみましょう。馬券の検討できっと役立ちます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました